いよいよインターハイ予選が始まる『ハイキュー!!』第5巻。
烏野は初戦で常波と、二回戦では伊達工業と対戦します。
本選に進めなければ、三年生にとっては通常これが最後の大会です。
漫画家や作家は、経験したことのない世界でも綿密な取材や下調べを基にリアリティーあふれる描写ができるすごい人たちですが、それでも経験者にしか分からない空気感や視点、感情は確実にあると思います。
漫画『ハイキュー!!』にはすごく好きなところがいくつかあって、その二つが5巻には詰め込まれていました。
それは作者・古舘春一さんがバレーボーラーだったからこそだと感じます。
とにかく懐かしい!試合会場の雰囲気
まず一つ目は、試合会場の描き方です。

<古舘春一『ハイキュー!!』第5巻・P80、81 集英社>
一瞬くらっときて飲まれそうになる、天井が高く奥行きのある空間。
響く掛け声と絶え間ない靴の音。
ズラーっと並んだ応援団の迫力、客席のどよめきや静まり。
高校の時は男バレマネだったので、各セット前にスタメンのサーブオーダーを書いた紙片(スターティング・ライン・アップ・シート)を出しにいくのも私の仕事でした。
でもそんなこと、この左上のコマを見るまで忘れていたよ。
その下のコマで思い出した、少し薄暗い廊下を大荷物を持って歩く感じとかも。
それから、10分間の公式ウォームアップのせわしなさ。
審判の鋭い笛の音と、ラインズマンの降る旗の音。
漫画なのでつい試合結果だけを追ってしまいがちですが、そういう試合以外のシーンから緊張感や高揚感が伝わってきて、懐かしさにキュッとなりました。
高校三年「部活の終わり」の描き方
もう一つ、『ハイキュー!!』を読み進める度に感動するのが、古舘さんの敗れたチームの描き方です。
トーナメント方式ですから、シード校を除いた半数の学校が初戦で敗退するわけで。
その中でも人数ギリギリの弱小校から、スポーツ推薦で有力選手をかき集めている強豪まで、チーム事情は実に様々。
高校によって部活事情は全く違うから、三年間本気で全国行きを目指してきたチームもあれば、和気あいあいと楽しんできたチームもあって、でも毎日部活に時間を費やしてきて「敗退=引退」に何も感じない人などいるわけがなく。
こんな風にあっけなく”部活”を終わる奴が
全国に何万人と居るんだろうそれでも

<古舘春一『ハイキュー!!』第5巻・P124、125 集英社>
俺達もやったよ
バレーボール
やってたよ
優しいですよね、古舘さんの視線。
大半の学校の生徒は優勝できないことを解ってる。
これは漫画だから「勝とうとしないと勝てない」と言っているけれど、実力があれば特に勝とうとしなくてもふううに勝てるし、下手なら負けるんですよ。
でも当然、試合の勝ち負け以外にも大切なものがあるから部活をやってきたわけで…
強豪同士の試合って本気vs本気なので、「敗戦=悔しい」ですが、そうじゃないチームの敗戦には切なさみたいなものがあると思う。
漫画としてはライバル校同士の戦いのほうが描きやすいだろうし、弱小校との試合をどう描くんだろうと思いましたが…
想像以上に優しく切ないシーンが待っていたのでした。
まさに強豪の威圧感!伊達工業の迫力
さて二回戦では、青葉城西とも音駒ともちがうカラーの、魅力的な高校がまた一校登場します。
伊達工業高校です。
伊達工は県内ナンバーワンの鉄壁ブロックを誇る強豪の一角。
かつてエースの旭がこれでもかというほどブロックされ、心を折られたチームです。
そんな伊達工戦で、日向が初めてカッコイイと思えるシーンがありました。
鉄壁を大いに引きつけた日向の背後から、エース旭がバックアタックを打つのに飛び出てくる場面。

<古舘春一『ハイキュー!!』第5巻・P202 集英社>
おそらく日向が、”最強の囮”の意義を知った瞬間。
バレーの1本目・2本目は「相手(次に球を触る人)のため」が欠かせない。
でもボールに触ってない時でもそれが発揮できたら最高なわけで、私はそういうプレーが好きなんだな。
それにしても青葉城西にしろ伊達工業にしろ、本当に仙台にありそうな学校名とチームカラーなのが楽しい。
いかつくてブロック強いとか、いかにも工業高校ぽくてカッコイイし。
毎度毎度、新たなチームの個性に惹きつけられてやまず、好きなキャラクターが増えていくばかりで、1巻では「なじめない」なんて言ってたくせに、気付いたらすっかりどハマりしていたのでした。