『ハイキュー!!』14巻のサブタイトルは「根性無しの戦い」でしたが、16巻は「元・根性無しの戦い」です。
14巻の”根性無し”こと縁下の戦いっぷりは見事でしたが、16巻の”元・根性無し”こと山口はいかに?
個人的に16巻にはアツい見どころが二つあり、一つが山口の戦いっぷり、もう一つは青葉城西の矢巾のシーンです。
それでは『ハイキュー!!』16巻の感想ブログです。
元・根性無しがヒーローになる時
準々決勝の和久谷南高校戦でピンチサーバーとしてコートに立ったものの、弱気な安全サーブを打ってしまい後悔する山口忠。
16巻冒頭、彼は烏養コーチに直談判に行くんです。
俺が投入される意味も分かって
そして
自分でも勝負できるようになりたいと思って
それでも土壇場で逃げました
俺にもう一回チャンスを下さい
いや、まずね、高1男子が弱い自分とここまで向き合えるのが立派ですよ。
本当の根性無しは自分の弱さを認められませんからね、もうこの時点で彼は「脱・根性無し」を為していると思います。
試合前、ジャンフロの師匠・嶋田さんが掛けた言葉もいい。
…烏養のトコへ行って来たんだろ?
自分の意思で
じゃあお前はもう今までとは決定的に違う選手だ
自分がやりたいと思うことをやって来いよ
第2セット、青葉城西が23-19と烏野を4点引き離した場面で、烏養コーチは山口を投入。

<古舘春一『ハイキュー!!』第16巻・P16 集英社>
以前は主審の笛にビビり慌てて打っていた山口ですが、嶋田のアドバイス通り、8秒間をじっくり使います。
よみがえる今までの悔しさと、背中を押してくれた主将の言葉。
深呼吸を一つ。
間をとって、トスを放ちます。
助走をつけてジャンプし、ボールを打つ。
しかしてその行方は―

<古舘春一『ハイキュー!!』第16巻・P20 集英社>
青城リベロに「アウト!!!」とジャッジされた球は、落ち際に大きく変化。
ラインズマンの判定は…IN!

<古舘春一『ハイキュー!!』第16巻・P22 集英社>
このシーン、描いていてカタルシス的気持ち良さがあったのではなかろうか。私ならきっと泣きながら描いている…。
このシーンの何が好きって、山口本人はもちろんだけど、チームメイト。
みんなの手を見てほしい、特に田中センパイとか。
苦しい場面で1点が入っただけの喜び方じゃない、山口のこれまでの努力を見てきたからこその喜び方なんですよね。
もう、このページだけで烏野がいかにいいチームなのか伝わってくる。
しかも山口は2本連続サービスエース!
ところで以前、8巻レビュー「コートの中と外、その差のリアル」を書きましたが、ここでも途中で入るピンサー独特の感情描写があって。
命を狙う側から
途端に狙われる側に回るような恐怖
これはサーブがエースとならず、相手チームから攻撃が来る時の気持ちですね。
サーバーはリベロと代われませんから、自分の打った球が落下するまでは当然プレーに参加します。
それはつまり、向こうの攻撃を一回は上げないとサーブ権を渡すことになる。この瞬間、もしレシーブの苦手な選手だったらすごく怖いと思う。
でも山口は青城エース・岩泉の強打を、胸のあたりで体当たりの根性レシーブ。

<古舘春一『ハイキュー!!』第16巻・P37 集英社>
月島がこれに応えます。
結果として、烏野は山口のサーブで5点を連取。
ほんと、すごい!強くなったね、山口…!!
ここまで読んで来て良かった!と心底思う場面でした。
さて第2セットはデュースの末、28-26で青葉城西が勝利。
しかし山口の活躍による追い上げで、烏野はいい雰囲気で最終セットへ。
セット間に田中が山口を褒め、それに素直に「ハイ!!!」と答える山口の笑顔がめっちゃくちゃ可愛いです。
“チーム”とは?
ところで第140話のタイトルが「輩(やから)」なんですが、烏野の輩といえばもちろん田中パイセン(哺乳類霊長目タナ科ヤカラ属、主な鳴き声は「ナニミテンダコラ」)。
第3セットをいい空気で迎えた烏野高校に対して、青葉城西は一人の選手がチームの和を乱します。
同じくヤカラ属の「狂犬ちゃん」こと京谷賢太郎・2年生。
この二人、お互いに意識してブロックやサーブで狙っては煽ってる。

<古舘春一『ハイキュー!!』第16巻・P93 集英社>
ただ同じヤカラ属でも、ふだんは温厚かつ仲間思いで義理堅いタナカとは違い、キョウタニは部に溶け込めない自己中マン。
自分のミスをフォローしてくれたチームメイトにこの態度。

<古舘春一『ハイキュー!!』第16巻・P110 集英社>
幼稚だわー、青城の輩。
京谷にはブタ甘な監督も、さすがにメンバーチェンジで彼を引っ込めます。
ここでいい仕事をしたのが同じ2年の控えセッター・矢巾秀(やはばしげる)。
他の控えメンバーが粗暴な京谷を避ける中、矢巾だけは正面切ってこう言います。
相手の挑発にまんまとノってアツくなって自滅
くそダサいな
まったくもってその通り。
でも誰にでも言えることじゃない、面倒は避けたいものだから。
京谷が噛み付こうとするも一歩も退かず、何やかや正論を述べた後に「…ていうのはまあ建前だ」と言って、いきなり京谷の胸ぐらを掴む矢巾!
その本音は

<古舘春一『ハイキュー!!』第16巻・P114 集英社>
先輩の晴舞台に泥塗ったら
絶対に許さねえからな
そう、春高予選で敗退すれば3年生は即引退。
部活から逃げていた京谷とちがい、本気で全国を目指し努力してきた及川たち3年の背中を、矢巾は見続けてきたのです。
だからこそのこの言葉、ほんとグッとくる。
ミスを重ねてもふてぶてしかった京谷も、これには驚きます。
…お前もっとチャラい奴だと思ってた
確かに15巻では、烏野の女マネにちょっかいかけようとする前振りがありました。でも
チャラくたって先輩は尊敬すんだよ
この矢巾のシーンには、すごく色んなものが詰まっている。
「先輩」だからと言って誰でも尊敬できるわけではないけれど、青城の3年生は確かに尊敬に値するということ。
矢巾自身の素直さと真っ直ぐさ。
それを持って、みんなが避けるような相手でも正面からぶつかる熱さと優しさ。
この矢巾の姿を見て、部活に来ずあちこちのクラブチームで点々と練習していた京谷は、そこで大人に言われた言葉を思い出します。
チームから逃げてあっちこっちで定住する事無く練習
そりゃ楽な道を選んだもんだ
「…あ!?」と食いかかろうとする京谷ですが、
チームっつうのは
頼もしく時に煩わしく
力強い味方であり重圧だ
それと向き合うこともしないでバレーやってるつもりかよ
核心をつくとはまさにこのこと。なんていい台詞なんだ!
…自分がチームを向き
チームも自分を向く
(中略)
それが出来たらラッキーだと覚えとけ
そういうチームはどこにでもあるものじゃない

<古舘春一『ハイキュー!!』第16巻・P124 集英社>
ぶつかっていた相手がコートに戻ってスパイク決めるなりこんな喜べる矢巾、ほんとめちゃくちゃいいヤツだし、コミュ障の京谷を無理やり輪に入れてやる及川と岩泉、さすがですね!
これで狂っていた青城の歯車が、ガチンと噛みあいます。
その後、矢巾もピンチサーバーで入るんだけど、いいスパイクサーブを打ちますね。
まあとっさのトスが短くなって京谷に左手で処理してもらったりしてるけど…
このシーンを見て、矢巾が次の主将になった時のことが浮かびました。
彼は巧いけれど及川ほどではないらしいし、軽さがあるのでナメられたり甘く見られたりすることがあるかもしれない。
でもそんな時に助けてくれるのは、案外京谷だったりするのかもしれないと。
それにしても、「チーム」というものの有難さと面倒くささを、こんなに的確に表現した台詞は初めて見たかも。
そして自分が厳しい部活を辞めたいと思いつつ辞めなかったのは、「チーム」があったからなんだと思い当たりました。
本当に、今だに好きでキライで誇りで面倒です。
準決勝ファイナルセット、勝敗の行方
さて、決勝進出をかけたファイナルセットは、終盤にきても20-20と両者譲りません。
ここに来て、ゾーンに入ったかのごとく烏野の強打を上げまくる岩泉。

<古舘春一『ハイキュー!!』第16巻・P173 集英社>
完全に共感です。
さらに及川渾身のサービスエースで、マッチポイントを握る青葉城西。
24-23となったところで烏野にメンバーチェンジ、月島に代わり3年菅原が入るシーンで16巻終了です。
ああ、ついに次回は17巻か…今からもう、苦しく悔しいです。