『ハイキュー!!』14巻は私にとって、特に胸の熱くなる巻の一つです。
まず『根性無しの戦い』というサブタイトルがいい。
表紙の二人、烏野の縁下力と和久谷南の中島猛がとてもいい表情をしていますね。
特に縁下のこれまでにない、厳しくも引き締まった、何かを抱えつつも覚悟を決めたような表情がとても好きです。
それでは、『ハイキュー!!』14巻の感想ブログです。
チームの大黒柱にアクシデントが起きた時
春高・宮城県代表を目指して和久谷南高校と準々決勝まっただ中の烏野高校。
第1セット終盤、主将の大地と田中が衝突し、大地が歯を折るケガを負ってしまいます。
そんな状況にもかかわらず、何をおいてもまず田中をかばい、責任を軽くしようとする大地。
田中に「すみません」と言わせないんです。

<古舘春一『ハイキュー!!』第14巻・P12 集英社>
6巻の名シーンのように、田中は自分自身が追い込まれても折れない精神力の持ち主だけど、大地は彼の優しさや責任感の強さをちゃんと分かっていて、その後のプレーに影響させないようにするんですね。
大地と田中、双方の性格の良さが出ていていいシーンだなと思います。
私もバレー部の練習中に前歯を折ったことありますが、歯を折る痛みって尋常じゃないですからね(歯の神経が露出するので空気に触れるだけで激痛)。
そして大地に代わってコートに入るのは、控えの2年生・縁下力。
ふだん冷静で賢い彼は、同学年の中で次期主将として推されています。
ところがこのピンチにコートに入った縁下、さっそく狙われて相手にサービスエースを許してしまいます。
技術で大地に劣る自覚があり、メンタルも追い込まれる縁下…
縁下、”根性”の見せ場
代わったばかりでミスをする―これはリアルにしんどい場面で、下を向きそうになる彼ですが、ここで”根性”を発揮します。
それは
逃げる方が絶対後からしんどいって事は
もう知ってる
から。
実は縁下、かつて烏養元監督のしごきに耐えられず、部活から一度逃げてしまったことがあるのです。
苦しい練習も怒られることもなく、クーラーの効いた部屋で好きなことができる…
でもそれを幸せな時間とは思えず、ボールの感触が、強打を拾った時の手の感触がよみがえり、たまらず部活に戻ります。
この縁下の苦悩のシーンは心底共感できるから、ぜひ読んでほしい。
そして今、ピンチを迎えた縁下を、部活をサボって「逃げた」時の後悔が奮い立たせるのです。
メンバーチェンジ早々狙われ失点という、誰もが弱気になるところで
サッ 来ォォオい!!!
腹から叫んで上を向く。

<古舘春一『ハイキュー!!』第14巻・P22、23 集英社>
私はこのコマに、何度泣いたか分からない。
逆境で自分を奮い立たせることに、どれほど気力が要るか知っているから。
同じ2年の西谷や田中に次期主将に指名されても

<古舘春一『ハイキュー!!』第14巻・P35 集英社>
こんな風に自信なさげだった回想シーンの、次のページがこれですよ。

<古舘春一『ハイキュー!!』第14巻・P36 集英社>
殻を破るのは、本当に勇気が要ること。崩壊しますよ、涙腺も。
そしてふだんは豆腐メンタルだけど、仲間のピンチや頑張りには絶対応えるエース・旭も気迫を見せる。
なんてふるえる展開…ほんともう、チームスポーツの魅力が詰まりに詰まったシーンだと思います。
果たして、山口は
20-23と、第1セット終盤で和久南に3点リードの烏野高校。
押し切りたい烏野は、ピンチサーバーに山口を投入します。
相変わらずガチガチに緊張してサーブトスが低くなってしまうものの、幸いネットに当たった球は相手コートに落ち、烏野が得点。
ポイントを挙げた山口ですが喜べず、次のサーブはジャンフロをやめ、いわゆる安全サーブを打ってしまいます。
結局は烏野が25点目を奪い第1セットを取るものの、弱気なサーブを見ていた烏養コーチは激怒し、山口の元に向かってきます。
その時。縁下が山口とコーチの間に割って入るんです。

<古舘春一『ハイキュー!!』第14巻・P59 集英社>
あっ
あのーっ
わ…わかってます!多分 自分で一番わかってます
攻めるべき場面でジャンフロから安全サーブに逃げてしまった山口の後悔を、誰より理解できる縁下。
自分もピンチ続きだったのに、こうして後輩をかばえる縁下、いいよね。
次期主将にふさわしいのは、こういうところでもあると思います。
そして山口自身は10巻で月島にぶつけた言葉を思い出し、己を
くそカッコ悪い
と悔やみ切れません。
続く第2セットは、大地がいることで当たり前のように上がっていたボールが上がらないことが増えるうえ、相手も強豪。
烏野がセットを落としてしまい、フルセットにもつれ込んでしまいます。
大黒柱なしのファイナルセット
いよいよ第3セット、6-8と和久南にリードを許した時、それまでミスに対する自責の念ばかり強かった縁下があるチャレンジをします。
レシーブのポジションについて意見を言うんです。
実は控え選手が試合中に自ら提案するだけでも、かなり勇気が要ると思う。
しかも彼は、それを実行してみせる。

<古舘春一『ハイキュー!!』第14巻・P102、103 集英社>
ここ一番で”根性”を見せた縁下。
「自分は大地の代替品だし、とても敵わない」という劣等感を払いのけ、自分なりのやり方でチームに貢献していきます。
最後の1点の基になったのも、この渾身のジャンプからのブロックカバー。

<古舘春一『ハイキュー!!』第14巻・P146 集英社>
背景の「飛べ!」の横断幕と相まって効果的なカッコ良さ!
このコマには本当にしびれました。
大地という大黒柱の不在に苦戦しましたが、烏野が勝利。
こうして準決勝進出を果たしたのでした。
チーム勝利後の”根性なし”たち
ところで試合後の125話のタイトルは『敗北者たち』なのですが、これは単に試合に負けた和久南の選手たちを指しているのではありません。
もちろん彼らも描かれているのですが、たぶん古舘先生は縁下と山口を含めていると思う。
「なぜ殻を破った縁下が”敗北者”…?」と思われるかもしれませんが、次に勝者と当たることになる青葉城西vs伊達工業の試合を見て、その上手さと迫力にビビってしまうんです。
そして大地が戻ってきて次の試合に出ることに、というより、自分がもう代理で出なくていいことに心底ほっとしてしまう。
そんな自分に腹を立てる縁下。

<古舘春一『ハイキュー!!』第14巻・P162 集英社>
トイレで一人、悔し涙を流します。
一方、唯一の武器であるサーブで全く攻めきれなかった山口は。

<古舘春一『ハイキュー!!』第14巻・P163 集英社>
とみんなから離れますが、もちろん本当の行先はトイレではありません。
実際この後どうしたのかは次で明かされますが…10巻の時のように、いい表情をしていますね。
今後への期待が高まります。
まとめ
「縁下のこういう姿、ずっと待ってたよ」というシーンがやっと見られた14巻。
「天才」でも「ザ・漫画的」でもない、能力的には平凡なキャラクターの努力や成長にこそ心動かされるのが『ハイキュー!!』だと思っています。
天才の影山と漫画的な日向だけでは正直、私には感動のしどころがありません。
菅原や縁下、山口という主役以外のキャラクターの闘いが熱いからこそ面白い漫画だし、そういう意味で14巻は最も心動かされる巻かもしれない。
それにしても古舘先生の描く「根性なしの戦い」はなぜこうも共感できるのかと思ったら、ご本人が高2の夏に一度、練習から逃げたことがあると書いていらっしゃいましたね。
くどいようですが、部活をサボった縁下の葛藤シーンの描写は見事です。